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脱原発・基本命題集 高木仁三郎かく語りき (10) 巨大システムの実証性が虚構化しやすい理由

脱原発・基本命題集 高木仁三郎かく語りき (10) 巨大システムの実証性が虚構化しやすい理由

 脱原発に生涯を尽くした科学者がいました。高木仁三郎(1938-2000、物理学、核化学)。なぜ脱原発なのか、忘れてはならない彼の言葉を、ご紹介します。個人的利害や社会的立場、思想・信条や好き嫌いなど趣味の違いを超えて、日本と世界の未来を真剣に考えようとする人にとっては、必ず知っておくべき基本命題集です。

【大きなシステムでは、システムを構成する個別的な要素ごとに、実験室的に純化した条件下で基礎的な現象を解析し、要素から全体を再構成するという手法を取るが、システムが大きくなると再現性が悪くなるという問題がある。そこで、可能な限り実物に近いシステムをつくり実験と検証を重ねることが必要になる。ところが、原子炉の場合、燃料棒など実物を使うわけにいかない部分があり、これが従来の実証性を虚構化する要因になっている。】
 (一)小さなシステムでの実験ならば、本物を使って何回も実験を繰り返し、失敗を重ねながら、生じるあらゆる物理的現象を把握しながら、いかなる条件下でも問題ないように改良していくことができる。
(二)システムが大型化したときには、小型のシステムの実験では予測しえないことが起こりうる。そこでまず、実験室的な純化した条件下で、ある事象を構成するいろいろな基礎的な現象を解析し、その基礎データをもとに、ある事象の全体を再構成するという方法が用いられる。
(三)ところが、そのような細分化された個別的な因子の再構成が、全体としての一つのシステムの振舞いを必ずしも再現化しえないという、実証的手法に基づく解析的科学における、一つの大きな問題点がある。
(四)そこで、伝統的な実証的方法に従えば、可能な限り実物に近いシステムを作り、実験を繰り返し、失敗を重ねながら、少しずつ(二)の精度を上げ、改良を積み上げていく必要がある。
(五)ところが、原子炉の緊急炉心冷却システムのようなものは、失敗を重ねてデータを収集することを前提に実物を使うわけにはいかない。そこで、実際には、小規模な模擬実験炉を作り、実際の燃料棒ではなく、たとえば電熱で加熱した模擬的な燃料棒を用いるなどして、実験することになる。それでも、なかなかうまくいかない。
(六)以上のような問題を抱えた状況での大型コンピュータの登場は、一挙に解析の適用範囲を拡げることになったが、検証性にかかわる問題の本質は、何ら変わっていない。これによって、科学は虚構的な領域に入り、従来の方法論からの変質が現実に進行していると言える。
 「ECCSとは、その名の通り、正規の冷却水の供給が配管の破断などによって断たれたとき、別のルートから緊急に原子炉に冷却水を注ぎこんで、空だきを防ぐための装置です。本書は、技術的な詳細に入ることを目的としていないので、ECCSの機能についてのこれ以上の記述は省きます。
 ECCSの最大の問題は、その機能の有効性が実証的に確かめられていないことにあり、さらにいえば、実証する手立てがないということです。
 伝統的な実証的方法に従えば、実際の大型原子炉を制作し、しかも実際と同じ運転条件を実現し、その条件下で冷却材(水)の喪失が起こるような事故(大口径配管の破断であるとか、圧力容器の亀裂であるとか)を生ぜしめて、ECCSを働かせ、首尾よく炉心に水が入って溶融事故を防ぎうることを確かめるというのが、ECCSの有効性を確認する最も直接的な手段といえます。しかしもちろん、通常の実験のように、何回もそんなことを繰り返し、失敗を重ねながら、生じるあらゆる物理的現象を把握しながら、いかなる条件下でも緊急冷却水が炉心に注入されるようになるまでECCSの性能を改良して行くといった方法は取りようがありません。経費の問題は別にしても、あまりに危険が大きすぎるから、ただの一回の失敗も許されないのです。
 そこで、実際には、小規模な模擬実験炉を作り、実際の燃料棒ではなく、たとえば電熱で加熱した模擬的な燃料棒を用いるなどして、ECCSの機能を検討するということになります。」(中略)
 「計画の変更が余儀なくされたのは、表の八〇〇シリーズの実験の後半段階で行われた炉心への緊急冷却水の注入実験で、六回の実験で六回とも、炉心に水が到達しなかったからです。その原因は、結局、原子炉内で起こる物理的現象が十分に把握できておらず、コンピュータによる予測と実験の間に大幅なずれが出てきてしまう、ということに尽きるといえます。
 実際の条件と比較すれば、はるかに小規模で、簡素化したシステムを用いた実験でもこういうことが起こるわけです。ましてや、実際の条件ではどのようなことが起こるのか、確たる予測はできず、ECCSの機能の有効性を実証する、というのとは程遠いのが実情です。システムを大型化したときには、小型のシステムの実験では予測しえないことが起こりうるし、その予測を行うのに必要な実証的手だてがない、という巨大科学技術に共通の困難がここに現われています。」(中略)
 「すでに述べたように、実証的手法に従えば、実験室的な純化した条件下で、ある事象を構成するいろいろな基礎的な現象を解析し、その基礎データをもとにある事象の全体を再構成するというアプローチの方法が用いられます。そのような細分化された個別的な因子の再構成が、全体としての一つのシステムの振舞いを必ずしも再現化しえないということが、実証的手法に基づく解析的科学の一つの大きな問題点とされてきました。
 大型コンピュータの登場は、そのような実証科学の問題をそのままにしながら、一挙に解析の適用範囲を拡げることになったのです。それによって、科学は虚構的な領域に入り、従来の方法論からの変質が現実に進行しているのです。」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第七巻 市民科学者として生きるⅠ』科学は変わる Ⅱ 原子力の困難(一)、pp.55-58)


 さて、まとめとして、ご紹介した高木仁三郎の言葉を、下記に一覧化しておきましょう。
また特に、一部の命題は、高木仁三郎の遺志を継ぐ原子力資料情報室(CNIC)の、とてもコンパクトで分かりやすくまとめられた「なぜ脱原発?」に、追記しておきます。

【科学技術論】
科学技術が巨大化することにより抱える4つの問題:①実証性の虚構化、②研究費への依存性増大による特定領域への偏向、③研究の細分化と効率性追求による総合的視点の喪失、④影響の巨大化と研究の私的性格との間の矛盾
①-1 人間的な感覚を通した実験室での経験が、科学の実証性の重要な基礎である。
①-2 大きなシステムでは、システムを構成する個別的な要素ごとに、実験室的に純化した条件下で基礎的な現象を解析し、要素から全体を再構成するという手法を取るが、システムが大きくなると再現性が悪くなるという問題がある。そこで、可能な限り実物に近いシステムをつくり実験と検証を重ねることが必要になる。ところが、原子炉の場合、燃料棒など実物を使うわけにいかない部分があり、これが従来の実証性を虚構化する要因になっている。


(以下、出典:なぜ脱原発?原子力資料情報室(CNIC)
原子力に頼らない社会をめざす「10の理由」
脱原発とは、その名の通り「原発(原子力発電所)のある社会から脱け出すこと」。でも、私たちはなぜ、脱原発を目指さなければならないのでしょうか。数ある答えの中でもCNICが特に重要と考える、脱原発の「10の理由」をお話します。
1. 放射能災害の危険性がある。
 原子核の核分裂反応を利用して電気をつくる原発では、反応のコントロールに失敗するとチェルノブイリ原発で起きたような爆発事故が発生します。また原子炉を冷やすことに失敗すれば、福島原発で起きたようなメルトダウン事故も起きてしまいます。これら原発の大事故は、寿命の長い放射能を大量に放出するため影響が長く続き、甚大な放射能災害をもたらします。このまま原発の運転を続ければ、地震や津波、人為的ミスなどさまざまな原因によって、またいつ次の大事故が起きても不思議ではありません。」
(補足1)核技術は、46億年かけて育まれたこの地球の環境には存在しなかった物質を、つくり出してしまう。
(補足2)この地球のあらゆる循環と生命の営みの原理である化学反応の世界よりも、100万倍も強い力の世界が核反応の世界だ。それは、一歩間違えれば、もはややり直しがきかないような事故のリスクを抱えている。
(補足3)人間は全知全能ではあり得ないから、必ず間違いや事故の可能性がある。したがって、試行錯誤や、やり直しが許されないような技術は、廃棄すべきである。宇宙開発、化学物質の製造、遺伝子組換えも、同様の観点での検証が必要だ。
2.放射性廃棄物という「負の遺産」を発生させる。
 もし仮に大事故は防げたとしても、原発を動かしている限り、さまざまな放射能のごみが大量に発生し続けます。それら放射性廃棄物の中には10万年以上も隔離が必要なものも存在し、このままでは後世にゆだねる「負の遺産」がますます増える一方です。未来の負担、子孫の負担を少しでも小さくすることを、私たちは真剣に考えなくてはいけません。」
(補足1)原発が、いかに巨大な量の放射能を蓄えているかを理解しておくこと。100万kW級の原発1基は、1日で広島型原爆3発分、年間700~1000発分の核反応に相当する。
(補足2)放射性廃棄物の管理を難しくする4つの理由(①毒性が非常に強い,②半減期が非常に長い,③発熱し続けるので小さくまとめられない,④化学的性質が違う多くの元素を含むので、処理や保管が難しい)
(補足2-1)放射性廃棄物が壊変して毒性のない元素になるには、数百万年の時間が必要となる。これは、人間に管理できる時間スケールだろうか?
(補足2-2)寿命の長い放射能を寿命の短いものにしてしまうとか、放射能のないものに変えてしまうという試みは、成功していない。すなわち、原子力の火は、つけることはできるが、消したいときに消せない火なのだ。
3.核拡散の危険性がある。
 原発も原爆も燃料は同じで、「ウラン」または「プルトニウム」です。原発の燃料である「低濃縮ウラン」をつくる作業を繰り返せば、原爆の燃料である「高濃縮ウラン」は容易に手に入ってしまいますし、また原発の使用済み燃料に含まれる「プルトニウム」は再処理工場で取り出すことが可能です。したがって原子力発電を続ける限り、新たに「核兵器国になろう」とする国や、「高濃縮ウランやプルトニウムを奪って核爆弾をつくろう」とする集団が現れることを防げません。またこれらの動きを封じ込める名目で「核管理社会」化が進めば、人権が制限され、危険を知るための情報も隠されて、充分な備えのないままに原発事故が起きてしまう可能性も否めません。
4.事故がなくても、労働者の被ばくをともなう。
 原発の中では、元請け-中請け-下請け-孫請け-ひ孫請けと何重にも差別された多くの労働者が働いています。そして被ばく全体の95パーセント以上が、「電力会社の社員以外」の人たちの身体で起きています(平常運転時)。
 原発だけでなく、ウランの鉱山使用済み燃料の再処理工場においても、大勢の人たちが放射線を浴びながら働いています。労働者の被ばくなくして、原発は動かないのです。
5.関連施設にも、大きな危険や問題がある。
 原子力発電では、ウラン鉱石を掘り出し燃料を製造する施設や、放射性廃棄物のあと始末をする施設など、いわゆる核燃料サイクルの関連施設が数多く必要となります。これらの施設も原発同様で、さまざまな事故の危険性を抱えており、労働者が被ばくし、また放射能のごみを大量に発生させています。
6.地域の自立や平和をそこなう。
 原発の立地自治体では、電源三法交付金などにより財政が一時的にうるおうため、これに依存することにより地域の経済的な自立が妨げられます。また、地域住民の間にそれまで存在しなかった「賛成」「反対」の対立を持ち込むことも、たいへん大きな問題です。
7.常に情報の隠ぺいやねつ造などが、つきまとう。
 原発をめぐる産・官・学の特定の関係者の間で「原子力ムラ」と呼ばれる風土が形成され、オープンな議論ができない環境ができあがっています。科学や技術の分野には批判的精神が不可欠ですが、研究費や人事を通してそれらが損なわれ、原子力の研究にかかわる大学や研究者には利益相反の疑いも生じています。
8.省エネルギーに逆行する。
 原子力自動車や原子力ストーブが存在しないように、原子力はほかのエネルギー源と違って、電気の形にしなくてはエネルギー利用ができません。しかも発電時のロスはきわめて大きく、発生した熱の65パーセント以上が温排水として海に捨てられてしまいます。また原発は、電力需要の変化に合わせて出力を変えられないため、出力調整用の発電所が必要となります。つまり原発を動かすために、火力、水力などの発電所が余分につくられてしまうのです。このように原子力はエネルギー源としてたいへん無駄が多く、省エネルギーに逆行する存在なのです。
9.実は、温暖化をすすめる。
 上で説明したように原発を増やせば、ほかの発電所も増えてしまいます。したがって原発が火力発電所よりもCO2を出さないとしても、原発のある社会では火力発電所も必要とするため、最終的にCO2を減らすことは叶わず温暖化を止めることもできません。それどころか、CO2の削減に最も効果的な「省エネルギー」に逆行する原発は、むしろ温暖化をすすめる存在です。原発に膨大な予算が注ぎ込まれることで、私たちの社会は、より有効な温暖化対策に使うべきお金を失っているのです。
10.実は、大停電を起こしやすい。
 大きな地震などがあると、多くの原発がいっせいに止まってしまうことがあります。そしていったん停止した原発は、再稼働するまでに多くの時間がかかります。また電力消費地から遠く離れた場所にしか建てられない原発には、長距離の送電が必要となります。そのため電圧や周波数の維持が困難になり、送電が止められてしまうこともあります。このように原発は、安定的な電力供給どころか、大停電につながる要因を数多く抱えています。原発の占める割合が大きいほど、止まれば大停電になりかねません。」
(出典:なぜ脱原発?原子力資料情報室(CNIC)


(出典:高木仁三郎の部屋
友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ
 「「死が間近い」と覚悟したときに思ったことのひとつに、なるべく多くのメッセージを多様な形で多様な人々に残しておきたいということがありました。そんな一環として、私はこの間少なからぬ本を書き上げたり、また未完にして終わったりしました。
 未完にして終わってはならないもののひとつが、この今書いているメッセージ。仮に「偲ぶ会」を適当な時期にやってほしい、と遺言しました。そうである以上、それに向けた私からの最低限のメッセージも必要でしょう。
 まず皆さん、ほんとうに長いことありがとうございました。体制内のごく標準的な一科学者として一生を終わっても何の不思議もない人間を、多くの方たちが暖かい手を差しのべて鍛え直して呉れました。それによってとにかくも「反原発の市民科学者」としての一生を貫徹することができました。
 反原発に生きることは、苦しいこともありましたが、全国、全世界に真摯に生きる人々とともにあることと、歴史の大道に沿って歩んでいることの確信から来る喜びは、小さな困難などをはるかに超えるものとして、いつも私を前に向って進めてくれました。幸いにして私は、ライト・ライブリフッド賞を始め、いくつかの賞に恵まれることになりましたが、繰り返し言って来たように、多くの志を共にする人たちと分かち合うものとしての受賞でした。
 残念ながら、原子力最後の日は見ることができず、私の方が先に逝かねばならなくなりましたが、せめて「プルトニウム最後の日」くらいは、目にしたかったです。でもそれはもう時間の問題でしょう。すでにあらゆる事実が、私たちの主張が正しかったことを示しています。なお、楽観できないのは、この末期的症状の中で、巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険でしょう。JCO事故からロシア原潜事故までのこの一年間を考えるとき、原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物が垂れ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。
 後に残る人々が、歴史を見通す透徹した知力と、大胆に現実に立ち向かう活発な行動力をもって、一刻も早く原子力の時代にピリオドをつけ、その賢明な終局に英知を結集されることを願ってやみません。私はどこかで、必ず、その皆さまの活動を見守っていることでしょう。
 私から一つだけ皆さんにお願いするとしたら、どうか今日を悲しい日にしないでください。
 泣き声や泣き顔は、私にはふさわしくありません。
 今日は、脱原発、反原発、そしてより平和で持続的な未来に向っての、心新たな誓いの日、スタートの楽しい日にして皆で楽しみましょう。高木仁三郎というバカな奴もいたなと、ちょっぴり思い出してくれながら、核のない社会に向けて、皆が楽しく夢を語る。そんな日にしましょう。
 いつまでも皆さんとともに
                     高木 仁三郎
 世紀末にあたり、新しい世紀をのぞみつつ」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第四巻 プルートーンの火』未公刊資料 友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ、pp.672-674)

高木仁三郎(1938-2000、物理学、核化学)
原子力資料情報室(CNIC)
Citizens' Nuclear Information Center
認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金|THE TAKAGI FUND for CITIZEN SCIENCE
高木仁三郎の部屋
高木仁三郎の本(amazon)
検索(高木仁三郎)
ニュース(高木仁三郎)

原子力市民委員会(2013-)
原子力市民委員会
Citizens' Commission on Nuclear Energy
原子力市民委員会 (@ccnejp) | Twitter
検索(原子力市民委員会)
ニュース(原子力市民委員会)

今後、数十年間、忘れないで注意する必要がある!

(出典:放射能汚染地図(八訂版)早川由紀夫の火山ブログ

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もし、ほんの少し運が悪ければどうなっていたか。決して忘れないこと!
 ※日本とチェルノブイリの汚染範囲が、同じ縮尺で描かれています。

(出典:放射能汚染地図(八訂版)早川由紀夫の火山ブログ



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