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哲学の再構築 フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)(2)主観なしのある世界が存在しているという可能性は、決して除去されてはいない。

 それがはるか過去に到達されたものであっても、誰によって唱えられたものであっても、真理は普遍的なものであって、時代により異なる光が当てられ、異なる表現が与えられても、同じ真理は確固として、ここに存在する。かつて哲学がめざした総合的な知恵の一部は、細分化された諸学の分野へと分離され、展開せしめられたが、現在なお、総合的な知恵たる真の哲学体系は存在しないように思われる。当哲学講座は、古今東西の主だった先哲の、受け継ぐべき最低限の最良部分の成果物を、一つの総合的な知恵の体系として記述する試みである。まず各先哲の内部体系として記述され、後に総合的な体系のなかで再記述されるだろう。

【主観なしのある世界は、存在するのか? 少なくとも「存在」の価値は現存在に依存し、人間にとっては価値ある「存在」が現存在としばしば同一のものだとしても、主観なしのある世界が存在しているという可能性は、決して除去されてはいない。】
 主観なしのある世界―――そうした世界を考えうるであろうか? そのような世界が存在して、主観なしでも表象できると考えることは、一つの矛盾である。そうすると、「本当に存在するもの」は、ここに現に存在しているものに依存しているだろうか? 依存している。少なくとも、「本当に存在するもの」の価値は、感覚する存在者に依存している。そして、人間にとっては、価値の認められた「本当に存在するもの」と、ここに現に存在しているものとが、しばしば同一のものなのである。しかし、主観なしのある世界が存在し、その世界が私たちに現われている世界に類似しているという可能性は、私たちが主観的な諸要因を認識するということによっては、決して除去されてはいない。
 「主観なしの或る世界―――そうした世界を考えうるであろうか? しかし、いま一切の生命が一挙に絶滅したと考えてみよ、その他一切のものが静かに運動しつづけ、私たちがいま見ているまさにその通りにあるということが、なぜありえないのであろうか? 私は、そうであるとは思わないが、しかし私には、なぜそう考えることができないのかが、わからない。色は主観的なものだと仮定してみよ―――色は《客観的に考えられえ》ないなどと私たちに語るものは、《何ひとつとしてない》のだ。世界が私たちに現われている世界に類似しているという可能性は、私たちが主観的な諸要因を認識するということによっては、決して除去されてはいない。
 主観をないものと考えること―――言いかえれば、世界を主観なしで表象しようと欲することは、一つの矛盾である、つまりそれは表象なしで表象することだ! おそらく十万もの主観的な表象があるだろう。私たち人間の持つ表象をないものと考えるとしても―――そこには蟻のもつ表象が残存している。そして一切の生命をないものと、そして蟻だけが残ったと考えるとすれば、ほんとうに現存在は蟻に依存しているのであろうか? そうだ、《現存在の価値》は感覚する存在者に依存しているのだ。そして、人間にとっては、現存在と価値のある現存在とはしばしば同一のものなのである。」
(フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)『遺稿集・生成の無垢』Ⅰ認識論/自然哲学/人間学 一五、ニーチェ全集 別巻4 生成の無垢(下)、pp.18-19、[原佑・吉沢伝三郎・1994])
(索引:世界、主観、現存在)




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 さて、まとめとして、ご紹介したフリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)の言葉を、下記に一覧化しておきましょう。


第一章 精神的なものと身体、世界の関係―――存在論
1.1 主観なしのある世界は、存在するのか? 少なくとも「存在」の価値は現存在に依存し、人間にとっては価値ある「存在」が現存在としばしば同一のものだとしても、主観なしのある世界が存在しているという可能性は、決して除去されてはいない。
1.2 自己意識発生の前提条件:間断のない変化における無条件的に異なったものの中に、等しいものや類似したものが、持久しているという信念が発生すること。

第二章 精神を構成する諸要素―――哲学原理
 第一節 原始的人類の詩作、絵画としての感覚―――感覚論・知覚論
 第二節 諸感情、諸本能の形成―――記憶論
 第三節 想像力の力、アポロン的なるもの―――幻想論
 第四節 思考、言語、思想、論理、理性、科学―――認識論
 第五節 行為論
 第六節 衝動、欲望、ディオニュソス的なるもの
 第七節 善いこと、道徳的諸価値とは何か―――道徳哲学
第三章 道徳からみた人類の歴史
 第一節 約束することのできる者
 第二節 命令する者と服従する者
 第三節 弱者の道徳
第四章 宇宙論的価値論―――永遠回帰
 第一節 心理学的状態としてのニヒリズムが発生する三つの場合
 第二節 生起する一切のものは永遠の秩序に従い、一定の自然法則に由って生起する
 第三節 真の救済
 第四節 永遠回帰
第五章 生成の無垢をめざして―――意志論
 第一節 審美的現象としての世界
 第二節 思想なしの衝動と思想をともなった衝動
 第三節 自由意志論
 第四節 学的思考に、芸術的な諸力と、生の実践的知恵とが統合された高度な有機的組織
第六章 来るべき未来の社会
 第一節 歴史における個人の役割
 第二節 来るべき未来の社会の条件
 第三節 諸個人が出会う困難と、それに対する若干の処方箋
第七章 現代社会について
 第一節 文化全般について
 第二節 仕事について
 第三節 教育、学問、教養について
 第四節 真の平和に至る手段
第八章 ニーチェ自身についての若干の覚書


(出典:wikipedia
「精神も徳も、これまでに百重にもみずからの力を試み、道に迷った。そうだ、人間は一つの試みであった。ああ、多くの無知と迷いが、われわれの身において身体と化しているのだ!
 幾千年の理性だけではなく―――幾千年の狂気もまた、われわれの身において突発する。継承者たることは、危険である。
 今なおわれわれは、一歩また一歩、偶然という巨人と戦っている。そして、これまでのところなお不条理、無意味が、全人類を支配していた。
 きみたちの精神きみたちの徳とが、きみたちによって新しく定立されんことを! それゆえ、きみたちは戦う者であるべきだ! それゆえ、きみたちは創造する者であるべきだ!
 認識しつつ身体はみずからを浄化する。認識をもって試みつつ身体はみずからを高める。認識する者にとって、一切の衝動は聖化される。高められた者にとって、魂は悦ばしくなる。
 医者よ、きみ自身を救え。そうすれば、さらにきみの患者をも救うことになるだろう。自分で自分をいやす者、そういう者を目の当たり見ることこそが、きみの患者にとって最善の救いであらんことを。
 いまだ決して歩み行かれたことのない千の小道がある。生の千の健康があり、生の千の隠れた島々がある。人間と人間の大地とは、依然として汲みつくされておらず、また発見されていない。
 目を覚ましていよ、そして耳を傾けよ、きみら孤独な者たちよ! 未来から、風がひめやかな羽ばたきをして吹いてくる。そして、さとい耳に、よい知らせが告げられる。
 きみら今日の孤独者たちよ、きみら脱退者たちよ、きみたちはいつの日か一つの民族となるであろう。―――そして、この民族からして、超人が〔生ずるであろう〕。
 まことに、大地はいずれ治癒の場所となるであろう! じじつ大地の周辺には、早くも或る新しい香気が漂っている。治癒にききめのある香気が、―――また或る新しい希望が〔漂っている〕!」
(フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)『このようにツァラトゥストラは語った』第一部、(二二)贈与する徳について、二、ニーチェ全集9 ツァラトゥストラ(上)、pp.138-140、[吉沢伝三郎・1994])

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哲学の再構築 フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)(1)自己意識発生の前提条件:間断のない変化における無条件的に異なったものの中に、等しいものや類似したものが、持久しているという信念が発生すること。

 それがはるか過去に到達されたものであっても、誰によって唱えられたものであっても、真理は普遍的なものであって、時代により異なる光が当てられ、異なる表現が与えられても、同じ真理は確固として、ここに存在する。かつて哲学がめざした総合的な知恵の一部は、細分化された諸学の分野へと分離され、展開せしめられたが、現在なお、総合的な知恵たる真の哲学体系は存在しないように思われる。当哲学講座は、古今東西の主だった先哲の、受け継ぐべき最低限の最良部分の成果物を、一つの総合的な知恵の体系として記述する試みである。まず各先哲の内部体系として記述され、後に総合的な体系のなかで再記述されるだろう。

【自己意識発生の前提条件:間断のない変化における無条件的に異なったものの中に、等しいものや類似したものが、持久しているという信念が発生すること。】
 間断のない変化における無条件的に異なったものの中に、等しいものや類似したものが、私たちの外部において持久しているという信念が発生する。同等性と類似性、並存や継起、快と不快も、このような判断とこの判断の血肉化との帰結として初めて生じる。私たち自身を一つの持久する、自己自身に等しいものとして把握する自己意識が発生するのは、この後である。

[説明図]
外部
間断のない変化における無条件的に異なったもの
内部
a 
a’
a”


b’
b”
→ A
→ A
→ A 等しいものという誤謬(同化作用)
  「外部にAというものが持久している」
→ B
→ B
→ B
同等性と類似性、並存や継起
快と不快も、このような判断とこの判断の血肉化との帰結として初めて生じる。
私たち自身を一つの持久する、自己自身に等しいものとして把握する自己意識が発生するのは、この後である。
 「総じて主観というものが存在しうるためには、なんらかの持久するものが現存していなくてはならない〔そして同様に多くの同等性と類似性が現存していなくてはならない〕。間断のない変化における《無条件的に異なったもの》などは確保されえないだろうし、何によっても確保されえないことだろう。そうしたものは石の雨のように流れ落ちることだろう。そしてなんらかの持久するものなしでは、並存や継起がその上に現われるであろうところの鏡が全然現存しないことになるだろう。鏡はすでに何か持久するものを前提するのだ。―――ところが、私の信ずるところでは、等しいものという誤謬が発生することによって、主観が発生するかもしれないのである。たとえば、原形質がさまざまな力(光、電気、圧力)からつねに《一つの刺激》だけを受け取り、この《一つの刺激》だけを《受け入れる能力があり、その他の一切を等しいものと感ずる》ような場合がそうだ―――そして、たぶん最低段階の有機的なものにおいてはこのようなことが起こっているにちがいない。まず最初に、《私たちの外部における》持久と同等性とに対する信念が発生し、―――そして後になってようやく私たちは、私たちの外部に大いに習熟してから、《私たち自身》を一つの《持久する、自己自身に等しいもの》として、つまり無条件的なものとして把握するのである。それゆえそういう《信念》(判断)が自己意識に先立って発生したにちがいない。すなわち有機的なものの《同化作用》の過程においてこういう信念がすでに現存しているのだ、―――言いかえれば、こういう誤謬が! これは神秘的なことだ、すなわちいかにして有機的なものは等しいものや類似したものや持久するものという判断にいたったのか? 快と不快とはこの判断とこの判断の血肉化との帰結として初めて生じる、それらは等しいものや類似したものから受ける栄養の習慣的な刺激をすでに前提しているのだ!」
(フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)『遺稿集・生成の無垢』Ⅰ認識論/自然哲学/人間学 六三、ニーチェ全集 別巻4 生成の無垢(下)、pp.49-50、[原佑・吉沢伝三郎・1994])
(索引:主観、類似したもの、持久するもの)




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第一章 精神的なものと身体、世界の関係―――存在論
1.1 自己意識発生の前提条件:間断のない変化における無条件的に異なったものの中に、等しいものや類似したものが、持久しているという信念が発生すること。
第二章 精神を構成する諸要素―――哲学原理
 第一節 原始的人類の詩作、絵画としての感覚―――感覚論・知覚論
 第二節 諸感情、諸本能の形成―――記憶論
 第三節 想像力の力、アポロン的なるもの―――幻想論
 第四節 思考、言語、思想、論理、理性、科学―――認識論
 第五節 行為論
 第六節 衝動、欲望、ディオニュソス的なるもの
 第七節 善いこと、道徳的諸価値とは何か―――道徳哲学
第三章 道徳からみた人類の歴史
 第一節 約束することのできる者
 第二節 命令する者と服従する者
 第三節 弱者の道徳
第四章 宇宙論的価値論―――永遠回帰
 第一節 心理学的状態としてのニヒリズムが発生する三つの場合
 第二節 生起する一切のものは永遠の秩序に従い、一定の自然法則に由って生起する
 第三節 真の救済
 第四節 永遠回帰
第五章 生成の無垢をめざして―――意志論
 第一節 審美的現象としての世界
 第二節 思想なしの衝動と思想をともなった衝動
 第三節 自由意志論
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 第二節 来るべき未来の社会の条件
 第三節 諸個人が出会う困難と、それに対する若干の処方箋
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 第一節 文化全般について
 第二節 仕事について
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(出典:wikipedia

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